2010年9月23日木曜日

いもがら閑話②

小学1年生の時、住んでいた小さな町は大火事となり、町のほぼ三分の一にあたる中心部が焼き落ちた。古い繁華街の道路はとても狭く以前からすでに問題になっていた街並であったが、案の定一軒の飲み屋の火の不始末は、瞬く間に町を火で覆い尽くした。野次馬が多くいて、消防車が現地に到着するのが遅れたことも大火事になった原因であったそうだ。
そのころの我が家は町の繁華街のはずれにあった。この火事の時、火の勢いは小さな野原をはさんだ材木工場のところにまで到達した。火の勢いは全く衰える様子はなかった。
危険を察したわが家族は避難をすることになった。瞬く間の事で、着の身着のままで飛び出したわが家族であった。そのとき家から飛び出た自分は、たくさんの大きな火の球が暗い夜空に勢いよく舞い上がる様子を見た。体験したことのないその光景はあまりにも壮絶であり、恐怖を感ずるものであったので、数十年を過ぎた今でも自分の瞼の裏にしっかりと焼き付いている。
風上の少し遠くにあった公民館に避難している間に火の勢いは鎮まり、わが家族は家屋も含めて災禍からまぬがれることができた。何故、あれほど大きな火事であったのに我が家の前で鎮火したのは今となっては何らかの奇跡でも起こったのではないかと思えるほどである。
この火事のあった時に、自分は人間の根性の一面を見せつけられる体験をした。我が家に隣接した家はバス会社に働く人であったが、この火事で隣人はバスを家の横につけ、家財道具を必死で詰め込んでいた。火事の勢いに狼狽したわが母は咄嗟に自分をそのバスに乗せながら叫んだ。「この子だけでも助けてください。お願いします」と。しかし、その隣人は「そんな余裕はない。出てゆけ。」といいながら、自分を押し返したのであった。自分はなされるがままに振舞ったのであるが、心には何らかの違和感が走ったのである。日頃の姿と違うその隣人に、人間はこうも変わるのものなのかと唖然として見ていたのである。複雑な事情がもしかしたらあったのかもしれないが、子供に分かる術はなかった。
昔よく言われた怖いものの代名詞、地震、雷、火事、おやじのうちの一つがこの時自分に降りかかってきたのであった。

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