2010年9月25日土曜日

いもがら閑話④

田舎の小さな町での生活は、父親の転勤に伴い終焉を迎えた。そして小学2年生の出発は新天地にて始まった。県内での移動ではあったが、小さな子供にとっての環境の変化は、とても刺激的なものであった。
1年生のころに父親にせがんで、雑種の子犬を飼っていたが、その犬は転勤先の新居まで引っ越しの荷物と一緒に箱に入れてトラックで運んだ。引っ越し先に到着して持ってきた荷物をひも解くと子犬は猛ダッシュで飛び出してきた。余程箱の中は窮屈で外が恋しかったのかと思ったが、子犬は野原の中央にあった木の根っこの所まで必死で走ってゆくと長い長い小便をした。どうも箱の中にいた間は小便を相当我慢していたようだ。
けなげというか、潔癖というか、頑固というか。犬は飼い主に似るというが、そのころの自分はそうだったのだろうか。確かに何かにとらわれると、意固地になる性癖があったことを思い出す。
たとえば母が家族団欒の席で良かれと思って用意した、『すきやき』をどうしても拒み続けた。別になにか嫌いなものが入っているからとかいう理由ではなく、何かこの料理のことで意見があわなかったことがあった後のことであった。『すきやき』は当時決していつでもありつける料理ではなかったはずなのに、家族とは別個に決まって自分で卵焼きを作って食べていた。何故決まって卵焼きだったのか。野菜炒めではだめだったのか。その理由は自分でもわからなかった。
こうして子犬との新天地での生活が始まった。周辺は閑寂な住宅街であった。住宅地の一角にちいさな空地があり、そこは野良犬たちの格好の溜まり場であった。そこでの野良犬たちの影響を受けたのであろうか。この犬は成長とともに、性格がなにかイビツになっていった。神経質であり、他人を見ると牙をむけ、物を壊したり、引っぱり出したりして、近所の人々に白い眼で見られるようになった。
父は怒り、この犬は我が家から追放されることになった。山奥に連れて行って、置き去りにするという方法だ。追放しても何度やってもすぐに帰ってくるので、覚悟を決めた父は相当遠くまで行って捨ててきたと言っていたが、真相は分からない。とにかくある時からこの犬はいなくなってしまった。

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