2010年9月27日月曜日

いもがら閑話⑥

 人が住むには決して良好とはいえない環境でのエピソードはさらに続く。
竹林に囲まれた周囲の環境はその付近に住む同年代の子供たちに格好の遊びの知恵を与えた。竹は多くの場合、子供らの遊び道具を作るための材料となった。我が家の子供らをみていると、ナイフを使って、鉛筆を上手に削るなどということが、なかなかできない。自分たちが小学生のころは、ナイフを使って物を作り出すというのは至極当然のことで、今時の子たちと違ってナイフは危険だから使わないなどという発想はあまりなかった。自分の指にはいつもナイフや竹でできた生傷があって、絆創膏を貼っていないときのほうが珍しかった。
 竹を使って紙玉鉄砲を作るのはとても楽しかった。質の良い竹を切りだし加工をする。竹の筒が、中に詰める新聞紙を水で溶かし球状にした弾にしっかりと密着し、2つの弾のあいだのシリンダーが圧力に十分耐えられる構造をどう作るか。これがポイントとなる。筒は長くするほど圧力があがり、弾はより遠くへと撃ちだされるが、シリンダーの部分が弱いと圧力で割れてしまうことになる。それでこの絶妙なバランスを得ると素晴らしい紙玉鉄砲が出来る。思考錯誤しながら、製作を重ねた。良いものが出来ると周りの子供たちには鼻高々となる。時には連発式紙玉鉄砲を作ったこともある。単発のものに較べて、銃撃戦になると連発式はとても有利であった。
 竹は竹馬の材料でもある。最近のスチール製の頑丈な竹馬とは違って、竹と縄を使って作る自家製のものである。足を乗せる台を固定するために思考錯誤したことをおぼえている。とにかくそこいらにある自然の材料を使って作るしかないのである。
 ある時竹ひごとバルサ材と紙を使ってグライダーの模型を作ったことがある。いよいよ完成し、試験飛行をする日を待った。当時夏から秋にかけては台風が頻繁に発生し、進路は南九州方面に集中し、時には台風の目が上陸するということがあった。
試験飛行の日は、まさにそんな日だった。重い雲で覆われ激しく吹き荒れた台風はあるときから急に静かになり上空に青空が広がった。まさに台風の目の中に突入したのであった。どうせ試験飛行するなら強い上昇気流の起こる瞬間が良いのではないかと思い、台風の目が通り過ぎるのを待った。
数分が過ぎたのだろうか。風はそれまでとは逆方向に急にふき始めた。今だと思い、セットしてあったグライダーを強く押し出した。グライダーは急速に上昇し、見事に木端微塵に破壊され、残骸が降って来たのであった。一瞬の出来事であった。実験とはこんなものだと思い無念の思いを噛みしめながら家に帰ったのであった。

0 件のコメント:

コメントを投稿